大判例

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東京地方裁判所 昭和43年(ワ)81号 判決

原告

小林増大

ほか一名

被告

秩父観光株式会社

ほか一名

主文

被告らは各自原告小林増大に対し金一六〇万円、原告小野沢久江に対し金九〇万円および右各金員に対する昭和三九年七月二〇日以降支払い済みに至るまで年五分の割合による金員の支払いをせよ。

原告らのその余の請求を棄却する。

訴訟費用はこれを二分し、その一を原告らの、その余を被告らの、各負担とする。

この判決は、原告ら勝訴の部分に限り、かりに執行することができる。

事実

第一、請求の趣旨

一、被告らは連帯して原告小林に対し三〇〇万円、原告小野沢に対し二〇〇万円および右各金員に対する昭和三九年七月二〇日以降支払済みに至るまで年五分の割合による金員の支払いをせよ。

二、訴訟費用は被告らの負担とする。

との判決および仮執行の宣言を求める。

第二、請求の趣旨に対する答弁

一、原告らの請求を棄却する。

二、訴訟費用は原告らの負担とする。

との判決を求める。

第三、請求の原因

一、(事故の発生)

原告らは、次の交通事故によつて傷害を受けた。

(一)  発生時 昭和三九年七月一九日午後一〇時頃

(二)  発生地 埼玉県秩父郡野上町大字長瀞八二三番地先路上

(三)  加害車 普通乗用自動車(埼五い一〇〇二号)

運転者 被告 設楽昌男

(四)  被害者 原告 両名(歩行中)

(五)  態様 歩行中の原告両名を加害車がひき倒した。

(六)  被害者原告両名の傷害の部位程度は、次のとおりで原告両名は事故当日から昭和四〇年一〇月二日まで清水病院に入院した。

原告小林 脊髄圧迫骨折、顔面および右脚の裂傷

原告小野沢 右脚粉砕複雑骨折、顔面強打裂傷

二、(責任原因)

被告らは、それぞれ次の理由により、本件事故により生じた原告らの損害を賠償する責任がある。

(一)  被告会社は、加害車を所有し自己のために運行の用に供していたものであるから、自賠法三条による責任。

(二)  被告設楽は、事故発生につき、前方不注視の過失があつたから、不法行為者として民法七〇九条の責任。

三、(被告小林の損害)

(一)  治療費等

(1) 医療費 四〇万円

(2) 雑費 一〇万円

(二)  休業損害

原告小林は、右治療に伴い、次のような休業を余儀なくされ二〇〇万円の損害を蒙つた。

(休業期間)

昭和三九年八月から昭和四〇年九月まで。

(事故時の月収)

少くとも一五万円(作家として)。

(三)  慰藉料

原告小林の本件傷害による精神的損害を慰藉すべき額は、前記の諸事情に鑑み五〇万円が相当である。

四、(原告小野沢の損害)

(一)  治療費 四〇万円

(二)  休業損害

原告小野沢は、右治療に伴い、次のような休業を余儀なくされ、一一四万円の利益を失つたが、そのうち一一〇万円を請求する。

(休業期間)

昭和三九年八月から昭和四一年二月まで。

(事故時の月収)

六万円(キヤバレーホステスとして)。

(三)  慰藉料

原告小野沢の本件傷害による精神的損害を慰籍すべき額は、前記の諸事情に鑑み、五〇万円が相当である。

五、(結論)

よつて、被告らに対し、原告小林は三〇〇万円、原告小野沢は二〇〇万円および右各金員に対する事故発生の日の翌日である昭和三九年七月二〇日以降支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

第四、被告らの事実主張

一、(請求原因に対する認否)

第一項中(一)ないし(四)は認める。(五)は否認する。(六)は傷害の事実および原告らが清水病院に入院したことは認めるが、部位程度は不知。

第二項中、(一)は認める。(二)は否認。

第三項は否認。

二、(事故態様に関する主張)

本件事故は、飲酒酩酊の上、国道上を手をつなぎ大声を出しながら歩行していた原告両名が、加害車が対向車とすれ違つた直後に、突然対向車の後方より道路を横断すべくとび出したために発生したものである。

三、(抗弁)

(一)  免責

右のとおりであつて、被告設楽には運転上の過失はなく、事故発生はひとえに被害者原告らの過失によるものである。また、被告会社には運行供用者としての過失はなかつたし、加害車には構造の缺陥も機能の障害もなかつたのであるから、被告会社は自賠法三条但書により免責される。

(二)  過失相殺

かりに然らずとするも事故発生については被害者原告らの過失も寄与しているのであるから、賠償額算定につき、これを斟酌すべきである。

(三)  消滅時効

本件事故に基く原告らの請求は、昭和四二年七月一八日の経過と共に時効によつて消滅したので、時効を援用する。

第五、抗弁事実に対する原告らの認否と再抗弁

(一)  原告らの過失は否認する。

(二)  原告らは、時効完成前である昭和四二年七月一四日に催告をし、右催告は同月一五日および一六日に両被告にそれぞれ到達し、その後六ケ月以内に本訴を提起したので、時効は中断している。

第六、再抗弁に対する認否

原告ら主張の催告の到達したことは認める。

第七、証拠関係 〔略〕

理由

一、(事故の発生)

請求原因第一項中(一)ないし(四)の事実は当事者間に争いがない。

〔証拠略〕によれば、横断歩行中の原告両名と加害車前部とが衝突したことが認められる。〔証拠略〕によれば、本件事故により、原告小林は頭部、顔面打撲挫創ならびに腰部挫傷、右下腿挫創、脳震盪の傷害を受け、原告小野沢は頭部、頭面打撲挫創ならびに脳震盪、右下腿複雑粉砕骨折の傷害を受けたことが認められ、原告両名が昭和三九年七月一九日から昭和四〇年一〇月二日まで清水病院に入院したことは当事者間に争いがない。

二、(責任原因と被害者の過失)

(一)  被告会社が加害車を自己のために運行の用に供していたことは当事者間に争いがない。

(二)  〔証拠略〕によれば、本件事故現場附近は、幅員六・四米のアスファルト舗装で歩車道の区別はなく、秩父方面へは約四〇〇米、熊谷方面へは約二〇〇米の直線コースで見透しは良好で路面は平担で道路の両側は水田であること、被告設楽は加害車を運転して秩父方面から熊谷方面へ向つて時速約三五粁で進行中、前方約一三米の地点に進行方向右前方から左へ斜めに横断中の原告両名を認識しながら、原告らが立ち止るものと過信し、単なる制動をしたのみで急制動の措置を講じなかつたため、原告両名に衝突したことが認められる。

右事実によれば、被告設楽には原告らの動静を充分に注視することなく安全な運転操作をしなかつた過失、原告両名は左方の安全を確認することなく斜め横断をした過失が認められ、両者の過失割合は、原告両名三対被告設楽七を以て相当と認める。

(三)  右の如く、被告設楽に過失が認められるからその余の点について判断するまでもなく、被告会社の免責の抗弁は失当である。

三、(原告小林の損害)

(一)  治療費等

(1)  医療費

〔証拠略〕のみによつて、医療費の額を認定することはできず、結局本件全証拠によつても、その額の立証がない。

ところで、同原告が前記の如く入院治療を受けたことから、医療費を必要としたことが推認されるから、右の点は慰藉料算定に際して斟酌することとする。

(2)  雑費

同原告の入院期間は、前記の如く、四四一日間であるところ、平均して入院一日当り少くとも二〇〇円の雑費を要することは公知の事実であるから、同原告の入院雑費は少くとも八万八二〇〇円と認められる。

(二)  休業損害

〔証拠略〕によれば、同原告は流行小説作家として、事故当時、少くとも月収一五万円の収入を得ていたことが認められるが、傷害の程度に鑑み、同原告の収入損は一〇ケ月分の一五〇万円と認められる。

(三)  過失相殺

以上(一)(二)の損害の合計は一五八万八二〇〇円となるが、同原告の前記過失を斟酌すると、被告らに賠償せしめるべき金額は一一〇万円を以て相当と認める。

(四)  慰藉料

原告小林の傷害の部位程度、本件事故の熊様その他諸般の事情を総合勘案し、同原告の慰藉料は五〇万円を以て相当と認める。

四、(原告小野沢の損害)

(一)  治療費

〔証拠略〕によつては未だ医療費額を認定することはできず、本件全証拠によつてもその額の立証がない。

ところで、原告小野沢が前記の如く入院治療を受けたことから、医療費を必要としたことが推測されるから、右の点は慰藉料算定に際して斟酌することとする。

(二)  休業損害

〔証拠略〕によれば、同原告は事故当時キャバレーホステスとして、少くとも六万円の収入を得ていたことが認められるが、衣服費・化粧品等の必要経費三分の一を控除した純収入は月四万円と認められ、右証拠によれば、同原告は一年二ケ月間休業を余儀なくされたことが認められるから、同原告の休業損害は五六万円と認められる。

(三)  過失相殺

原告小野沢の財産上の損害は五六万円であるが、同原告の前記過失を斟酌すると、被告らに賠償せしめるべき金額は、四〇万円を以て相当と認める。

(四)  慰藉料

原告小野沢の傷害の部位程度、本件事故の熊様その他諸般の事情を総合勘案し、同原告の慰藉料は五〇万円を以て相当と認める。

五、(消滅時効)

被告らは、消滅時効の抗弁を援用したのであるが、原告らが時効完成前の昭和四二年七月一四日に催告をなし、右催告は同月一五日および一六日に被告らにそれぞれ到達したことは当事者間に争いがなく、本訴の提起が昭和四三年一月八日であることは一件記録によつて明白であつて右催告から六ケ月以内であるから、消滅時効は中断したものと認められ、消滅時効の抗弁は理由がない。

六、(結論)

よつて、被告らは連帯して、原告小林に対し一六〇万円、原告小野沢に対し九〇万円および右各金員に対する事故発生の日の翌日である昭和三九年七月二〇日以降支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払義務があるから、右の限度で原告らの請求を認容し、その余の請求を棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条、九三条、仮執行の宣言につき同法一九六条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 篠田省二)

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